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大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)2653号 判決

原告

福住文江

被告

株式会社森田工務店

主文

1  被告は原告に対し金四二七、六五五円およびうち金三九七、六五五円に対する昭和四七年六月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  原告その余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを四分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

4  この判決のうち第一項はかりに執行することができる。

事実

第一申立

一  原告

1  被告は原告に対し金五七六、四〇〇円およびうち金五一六、四〇〇円に対する昭和四七年六月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二請求の原因

一  原告は、つぎの交通事故により物損を被つた。

(一)  日時 昭和四六年一〇月二六日午後一〇時二五分ころ

(二)  場所 大阪市大淀区天神橋筋九丁目一二番地先路上

(三)  加害車 マイクロバス(大阪五一ほ七六四〇号)

右運転者 麻田薫

(四)  被害車 普通乗用自動車トヨタコロナ(泉五五に五五五七号)

(五)  態様 北から南に向つて進行中の被害車に道路中心線を超え対面進行して来た加害車が衝突した。

二  責任原因

被告は、その営む事業のため前記麻田を雇用し、同人において被告の業務の執行中本件事故を発生させたものであるが、本件事故は、同人において加害車を運転進行するに際し、速度を出しすぎていたためカーブを曲りきれず道路中心線を超えて対向車線上に進脱するとともに前方の注視も不十分であつたため、対面進行して来た被害車に対処して適切なハンドル操作もできなかつたことにより発生するに至つたもので、同人の過失により惹起されたものである。

三  物損の内容

原告所有の被害車が破損した。

四  損害額

(一)  修理費 金二七〇、〇〇〇円

破損した被害車の修理のため前記金額を要した。

(二)  破損による価値下落 金一九六、四〇〇円

被害車は、昭和四六年六月一七日金九一九、〇〇〇円で購入されたもので、本件事故当時までわずか四箇月余しか使用されておらず、本件事故当時は少くとも購入価額の六〇パーセントに相当する金五五一、四〇〇円の価値があつたところ、前記破損のため修理を加えても金三五五、〇〇〇円の価値しかなくなり、原告は、その差額金一九六、四〇〇円相当の損害を被るに至つている。

(三)  代車使用料 金五〇、〇〇〇円

原告は、事故後被害車の修理が終るまでの二箇月間余の間自己の営む営業のため被害車を使用することができず、そのためタクシーを利用しなければならなくなり、その費用としてかなりの金額を要したが、本訴においてはとりあえずそのうち金五〇、〇〇〇円を自己の被つた損害として賠償を求める。

(四)  弁護士費用 金六〇、〇〇〇円

五  結論

よつて、原告は、本件事故に基づく損害の賠償として被告に対し前項の合計金五七六、四〇〇円およびうち弁護士費用部分を除く金五一六、四〇〇円に対する本件訴状送達の翌日である昭和四七年六月二七日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三答弁

請求原因第一、二、三項の事実は認める。

同第四項の事実は知らない。

同第五項は争う。

証拠〔略〕

理由

一  事故、責任原因、物損の内容

請求原因第一、二、三項の事実は当事者間に争いがない。

二  損害額

(一)  修理費 金二七〇、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、本件事故により凹損、変形した被害車々体右側面の取替修理等のため前記金額を要したことが認められる。

(二)  破損による価値下落 金七七、六五五円

〔証拠略〕によれば、被害車は、本件事故の四箇月余前である昭和四六年六月九日新車として登録された販売価額金九一九、〇〇〇円のハードトツプといわれている車種の自動車であり、事故当日までに五、〇二二キロメートル走行させていたこと、本件事故後原告は、前記のように修理された被害車を走行させると、車体扉付近から異様な振動音が発するほか、高速走行をしながらハンドルを右に切ると車体の安定性を欠き、高速道路における高速走行に使用することをさしひかえている旨訴えていることが認められる。

ところで、乗用自動車は、かなりの高速のもとでも安全確実に走行できるよう設計された精密な機械であるから、一度事故に会いかなりの衝激を受けて大きく破損した場合外観はともかく、性能面において事故前とかわらない程度に修理することは往々にして困難であり、このため事故により被害を受けた自動車は、一見完全に修理されたと認められるような場合においても、その性能についてとかくの疑惑がもたれ、交換価値が下落するに至つていることは周知のとおりである。そして、被害車の場合、前認定の車種および破損の程度からみて、前記修理にもかかわらず、原告に訴えているように事故前と同一性能に恢復していないと疑われる公算が極めて大であるし、また、かりに原告において訴えている性能低下に主観的要素の介入がなくはないとしてみても、前記のように破損した被害車を高速走行に使用することを躊躇するがごときは至極当然のことと思われる。そうすると、被害車は、その修理にもかかわらずなお事故前の価値を恢復するに至つていないものといつて差し支えないであろう。なお、〔証拠略〕によれば、被害車を修理した修理業者は、修理終了後被害車の試運転を行つた結果、完全に修理されたことを確認した旨述べていたことが認められるが、さきに認定した被害車の破損の程度等からみれば、右修理業者の述べているとおり被害車が事故前と同一性能を恢復しているものと確実に信用するものはまずなく、むしろ被害車には性能低下があるのではないかと疑うのが殆んであろうことは、すでに述べたところから明らかであろう。

さて、右に述べたような被害車の性能に対する疑惑から招来される交換価値の下落、あるいは走行に供する場合の手控から生ずる損失の額の算定は極めて困難なことであるが、すでに認定した被害車破損の部位、程度、修理の程度修理後原告の訴えている被害車不調の状況、その他諸般の事情によれば、右価値の下落は、本件事故当時における被害車の時価の一割程度と認めるのが相当であるところ、被害車の本件事故当時における時価は、その耐用年数を五年とし、いわゆる定率減価償却法によつて算出できる金七七六、五五五円と認めるのが相当であるから、被害車の価値下落による損害は、金七七、六五五円(円位未満切捨)ということができる。

なお、〔証拠略〕によれば、修理後の被害車の時価が日本自動車査定協会大阪府支所において金三五五、〇〇〇円と査定されていることが認められるが、右査定は、その基準、根拠についての説明がなく、そのまま直ちに採用することができない。

(三)  代車使用料 金五〇、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、被害車の修理のためにはかなりの部品の取替を要したところ、右部品の取寄にかなりの日時を要し、原告は、昭和四六年一二月三〇日に至つてはじめて修理業者から被害車の修理完了を告げられたこと、原告は、かねて被害車を自己の洋裁店経営のために使用していたところから被害車の修理期間中は被害車の使用に代えタクシー等を利用し、その費用として右同日までに金一五四、三七〇円を支出したことが認められる。ところで、原告において被害車を自己の営業のため使用するときは、被害車の償却費、あるいは燃料費等を負担しなければならないことは明らかであるから、損益相殺の法理により原告の前認定タクシー代のすべてをもつて被告の賠償すべき原告の損害ということは勿論できないが、原告において支出を免れる右被害車の償却費、燃料費、その他の維持費を考慮しても、なお、原告において前認定代車の使用によりその請求にかかる金五〇、〇〇〇円程度の損害を被つていることは優にこれを認めることができる。

(四)  弁護士費用 金三〇、〇〇〇円

以上認定のとおりとすれば、原告は、被告に対し金三九七、六五五円の損害賠償請求権を有するところ、被告において任意にその支払をしないため、原告において弁護士に対し本訴の提起を委任し、その費用等として金五〇、〇〇〇円を支払つていることは原告本人尋問の結果により明らかであるから、被告は、右弁護士費用のうち相当額をも本件事故による原告の損害として賠償しなければならないところ、右相当額は、本件訴訟の難易、その審理に要した期間、本訴請求額、認容額等によれば、金三〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

三  結論

よつて、原告の本訴請求は、被告に対し金四二七、六五五円およびうち弁護士費用部分を除く金三九七、六五五円に対する本件訴状送達の翌日であること当裁判所に顕著な昭和四七年六月二七日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においては理由があるからこれを認容しなければならないが、その余は失当として棄却を免れず訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文、第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小酒禮)

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